📖感想のご紹介その2!「企業戦略としてのテレワークと障がい者雇用シンポジウム」
動画も公開中!
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「企業戦略としてのテレワークと障がい者雇用シンポジウム」感想文 Bさん(仮名)
この度はシンポジウムに参加させていただき、誠にありがとうございました。障がい者に関する雇用状況など、今まで知らなかった情報を聞くことができた、貴重な機会となりました。
以下、ご登壇された方々の講演やパネルディスカッションを聞いた上での感想や、講演後に考えたことを、浅慮な私ではございますが書かせていただきます。
“ニーズ”を測れていなかった。 ――秋野 公造様のご講演
在宅就労移行支援事業に関する直近の状況や、障がい者の縫製による事業例についてのご講演でした。「在宅」での就労移行支援事業が平成24年度に一時消えていた、というのは衝撃的なお話でした。
障がい者を雇用する事業者目線でニーズを測ってしまったために、当の支援利用者のニーズを測れておらず、結果として一時消滅に至ったというのも、ひどい話だと感じます。秋野様、および田中様のご尽力、ご苦労は相当なものであったのだろうと思います。
秋野 公造 氏(シンポジウムの動画より)
平成30年度には「雇用先への定着」に重点を置いた定着支援事業も始められる予定とのことで、そのような事業もこれから必要になるというのは私も納得する内容でした。
一方で、そもそもこの制度が知られていないという制度周知を課題に挙げておられましたが、その方策はあまり語られていませんでした。そのこと自体が制度周知や世論形成の難しさを示す、ということなのかもしれませんが、こちらの問題についてより具体的な踏み込みが欲しいと感じました。
障がい者による縫製された服もお持ちになり、拝見いたしました。「障がい者だからこそ、健常者では見つけられない価値がある」というお言葉が大変印象に残りました。おっしゃる通りだと思います。
在宅支援は『導入しなければならない』ソリューションになった。 ――田中 良明様のご講演
在宅就労移行支援事業による雇用の利点や、現状についての具体的な内容のご講演でした。「在宅就労はバーチャルな企業誘致であり、3~5年で形成されてくるのでは」というお話が非常に印象的でした。
私も前職で在宅での勤務を希望してSEとして入社し、(ごく一部だけ)その内容は叶っていましたが、オフィスを必要としない勤務形態はこれからも、できるだけ早く日本社会に拡がってほしいと切に願うところです。
田中 良明 氏(シンポジウムの動画より)
また、「東日本大震災を契機に、在宅支援は『導入しなければならない』ソリューションになった」というお話も、興味深いものでした。一方で、この認識を持っている法人というのは日本にどれだけいるのかという課題も感じました。
「在宅就労に関するシステム導入に利点がある」という、経営上の合理的な考え方でもまだ浸透しているとは言い難い状況で、「導入しなければならない」=「経営上損失を被るリスクを容認した上で導入すべき」と考えられる経営者が日本にどれだけいるでしょうか。まだまだ、在宅就労に携わる方々と、経済界や経営者とのギャップが埋まっていないのではないか、と感じました。
在宅就労に関する訓練を行う事業所は1%。 ――井上 量様のご講演
厚生労働省での現場から見た、在宅就労移行支援事業の現状についてのご講演でした。就労移行支援事業によって障がい者の雇用割合は増えたものの、25%。井上様のおっしゃる通り、まだ十分に浸透していないという現場感覚をお話しされていたのが印象的でした。
また、移行支援事業所も地域格差があり、自治体ごとに置けていない、地域格差があるという点や、在宅での訓練について、そもそも自治体の理解が得られないなど、行政でも相当悩ましい問題があるという苦悩を読み取ることができました。
井上 量 氏(シンポジウムの動画より)
特に、サンプル抽出とはいえ、在宅就労に関する訓練を行う事業所が1%しかないことや、井上様の独自調査という前提で、ハローワークの障がい者用在宅求人が1700分の16であったりと、自治体、支援事業者、雇用企業などへの認知度の低さが浮き彫りとなるお話が強く記憶に残りました。秋野様のご講演でお聞きした就労移行支援事業に関するハンドブックが広まり、自治体や事業者の理解や質の向上が進むことを切に願うばかりです。
特別支援学校から見た、障がい者雇用。 ――俵 幸嗣様のご講演
特別支援学校からの障がい者雇用に関する視点についてのご講演でした。パネルディスカッションにて、特別支援学校高等部の卒業後の進路について、31%が就職し、6割以上が施設などに入られるというお話をお聞きしました。
俵 幸嗣 氏(シンポジウムの動画より)
徐々に就職割合は増えてきているとは思いますが、まだまだ低いな、というのが正直な感想です。だからこそ、在宅なら働けるのでは、という障がい者側のニーズの掘り起こしなどが、今後とも進んでほしいと願います。
Microsoft 社における障がい者雇用や取り組みについて。 ――大島 友子様のご講演
Microsoft 社における障がい者雇用の現状や、障がいを乗り越えるための取り組み、仕組みに関するご講演でした。ご講演中盤以降でお聞きした Seeing AI や、「同じシステムだが障がい者にだけ追加のプログラムを導入して、同じシステムをベースとしてコミュニケーションを図っていく(恐らくアドオンなどのことだろうと推察します)」といったお話が印象的でした。
大島 友子 氏(シンポジウムの動画より)
技術の発展があったからこそ在宅での就労という選択肢が広がったわけで、こういった既存の技術を組み合わせつつ、革新的なアイディアを出し、製品化する取り組みはとてもワクワクするお話でした。
一方で、個人的な視点で恐縮ですが、うつ病などの精神的な障がい者に対するアプローチのお話が出てこなかったのが残念でした。肉体的なハンディキャップを乗り越える技術のお話が優先され、時間の中で省略されたものだろうと愚考しますが、できれば社会になじめず精神疾患を発症したり、私のように仕事に忙殺されて退職してしまうような、そんな精神的に「弱い」傾向にある方々へのケアはどうされているのだろう、そんなお話もお聞きしたかったです。
70%の企業がソフトウェア開発を失敗している。「アジャイル」や「スクラム」の有用性。 ――時津 宝生様のご講演
株式会社 MarbleSystems 様での、在宅雇用を行う上でのチーム構成に関するご講演でした。アジャイル開発とスクラムチームというキーワードで、本当にラグビーのスクラムを組むようなチーム構成で在宅開発、アジャイル開発を行うという気概を感じることができました。
時津 宝生 氏(シンポジウムの動画より)
新卒からSEとして入社し働いていた私からしても、ウォーターフォール開発の時代遅れ感や、クライアントによる開発・運用の丸投げという悪習は実際に私も痛い目に遭ってきたため、こうした形での開発がどんどん啓発されてほしい! というのは心から感じることです。
ただ、そもそもクライアントが開発手法や開発における自分の役割を何ら理解せず、わかろうともしないという現状は、前職からしてもそれを直視して、改善する方策を生み出さねばならないと感じました。ウォーターフォール開発について知ってる人、との問いかけに、ほとんど手が上がらなかった、というのがその現実を表していて、衝撃を受けました。システム開発に失敗する70%にならないための、クライアント側への働きかけや理解がもっと必要だろうと感じました。
障がいを持っていても、諦めたら人生つまらない。 ――我如古 盛健様のご演奏
実際に障がいを持ち、秋野様と取り組みをなされている我如古様のご演奏は非常に素晴らしいものでした。休憩時間の催しでしたが、これを聞かずに休憩するのは本当にもったいないと思います。むしろきちんとした時間を取って、この催しをプログラムに組み入れてほしいと切に感じました。
沖縄三線演奏 我如古 盛健 氏(シンポジウムの動画より)
障がいを持っていても、諦めたら人生つまらない、というメッセージに、私も本当に元気をもらいました。私も引きこもりをなんとかして脱したいともがき、迷いながら進んでいる最中です。我如古様のような肉体的な制限は存在しない私ですが、精神的なハンディキャップと現実社会を何とかすり合わせて、働けるようになりたいなと、改めて思えました。
また、ハイエンドモデルの車椅子についてもとても未来的でワクワクするものでした。むしろ「車椅子に乗っている方がカッコイイ!」と世の中が思えるくらいになれば、肉体的な障がいは個性として昇華されていくのではないでしょうか。そんな未来的なデザインと機能だと感じました。
知らなければ無いのと同然。 ――佐藤 啓様のパネルディスカッション
ご講演ではありませんでしたが、佐藤様のお話も痛烈に印象に残りました。「端的に言って東京での環境は非常に厳しい」「知らなければ無いのと同然」といった厳しいお言葉が、障がい者雇用に関する高いハードルを物語っていると思いました。
佐藤 啓(シンポジウムの動画より)
まさにおっしゃる通りで、私も「就労移行支援事業」に関しては検索で得た知識程度しかありません。そもそも障がい者雇用に興味がなければ、「就労移行支援事業」という単語すら聞くことは無いでしょう。様々な無理解、無知や偏見が、在宅就労を広めるためのハードルになっているという厳しい現実を実感しました。
「6重」の無知・無理解を乗り越えなければならない。 ――ご講演を聞いて
ご講演の中でとにかく際立ったのが、在宅就労に関する無知・無理解という現状でした。まず障がい者本人に対する「在宅就労支援」に対する周知不足。在宅就労に関して、両親や家族のもつ価値観による無理解。というより自治体自体が効果測定に懐疑的で、導入が進んでいない。支援事業所も及び腰。企業も在宅就労の利点、または導入しなければならないソリューションであるという認識が不足しており、採用求人の間口がほとんどない。世間もそんなものがあると知らないから、世論形成にも全く至らない。
本人、家族、自治体、事業所、企業、社会。「6重」の無知・無理解を乗り越えなければならないという苦しい道のりを感じました。そして、これらの無理解に対するアプローチについて、ご講演の中でほとんど触れられなかったという点も気がかりです。
とても難しいことなのは承知の上ですが、制度構築がなされた今こそ、その周知についてより軸足を置いて積極的に発信していくべきなのではと思います。むしろ情報発信のために全力を傾けても良いと思うくらいです(批判的な内容を書いておきながら、じゃあ具体策は? と聞かれたら何も答えられない自分が本当に悔しいのですが)。
またこの6重の無知・無理解という壁を崩すには、どこかから手を付けなければなりません。私は上記の6つの壁で一番手っ取り早く取り掛かれるのは「企業」ではないかと考えます。今回は障がい者雇用という視点からの在宅就労のお話でしたが、そもそも在宅就労は障がい者だけでなく、世の労働者と経営者双方にとって利益のある仕組みになれるはずです。在宅就労に関するシステム導入のコストと、既存の就労管理のコストを比較して、前者が明確にコストが低いと認知されれば、導入は一気に広まると思います。
ここでいう「コスト」の定義や、その計測の仕方を策定しなければならない、また、本当に「既存のシステムよりコストが低い、または低くなるのか」という課題はありますが、利益を得るために合理的に動く法人だからこそ、無知・無理解という壁を崩しやすいのではないか(理解して有益と判断すれば即座に行動できる)と考えています。「企業」や経営者の理解を得られれば、まず健常者の間で在宅就労が広がります。「家族」「自治体」「社会」への価値観の伝播が始まるでしょう。
こうした下地が出来上がれば、「では障がい者の在宅就労は?」という世論形成も容易になっていくのではないでしょうか。健常者に在宅就労という選択肢が波及していれば、「障がい者本人」に対する周知もより容易になっていくはずです。当然、在宅就労の選択肢が一般的になれば、「事業所」もそれに軸足を置いた支援を増やしていくでしょう。
もちろんこれだけを待っていては障がい者への就労支援を速やかに波及させることはできません。上記の価値観伝播に何年かかるのかも分からない以上、障がい者へ直接働きかける在宅就労支援制度は間違いなく無くてはならないものだと思います。
その上で、障がい者雇用という視点からのテレワークも、健常者のテレワークも、両方から働きかけて社会に認知されていくことが重要なのではないかと思いました。